■s/n
□concept
都心の雑踏を離れること車で2時間、水田と雑木林に囲まれた場所に佇む住宅。クライアントである夫婦からの与件は、必要最小限の住居機能を持つ、音楽スタジオとアトリエをつくりたい、ということであった。
私たちは、周辺環境に対して、意図する行為、視野に入れたい風景、利用者の心理状況、将来的に行いたい活動などを配置し、その配置を建築によってサポートすることを考えた。
音響・通信分野において、伝えたい信号の強度に対するノイズの量の比のことをシグナル対ノイズ(S/N)比と呼ぶが、空間的にもS/N比を高めることは重要である。ここでは、スタジオとしての音響特性、アトリエとしてのボリュームと光の質、ゲストを招くための設え、などが空間としてのシグナルとなる。
空間的なS/N比を高めていった結果、直方体の中を空洞がくり貫いた状態に至った。くり貫かれた空洞では床・壁・天井、すべてがうねる面となる。これは平行面によるフラッターエコーを防ぎ、反射音が豊かな音響空間としたいというシグナルに合致したものだ。
空洞の南側内壁はルーバーとして直射日光の緩衝帯とした。室内に入ってきた自然光が光のフィルターによって拡散光となり、うねる面によって幾重にも反射され、空洞の中を巡ることを意図している。
限られたコスト・設計意図と相反する要望・施工側からの技術的提案など、従来ノイズとして考えられがちな要素であっても、サウンドの一部として捉えることが必要なのではないか。つまりS/NがS∋Nとなる状態こそ目指すべき方向である。
この住宅は、音と光が反響する「木の洞窟」である。
松野勉・相澤久美/ライフアンドシェルター社
ben matsuno, kumi aizawa / life + shelter co.,
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photo by nacasa & pertners